暑い7月の平日の昼。
駅から会議室へ向かうアスファルトの上で、
それは唐突にやってきた。
尋常じゃない胸の締め付けと冷や汗。
立ち止まると痛みは引くが、
歩き出すとまた心臓を鷲掴みにされる。
「とりあえず、今日の会議だけやり過ごそう」
命に関わるような時でも、
そんなくだらない生真面目さが顔を出す。
会議室に這うように着き、
「終わったら病院に行きます」と告げると、
上司は言った。
「今すぐ行け」
5枚目
背中を押され滑り込んだ病院で、
私の日常はあっけなく折れ曲がった。
診断名は「狭心症」。
心筋梗塞手前だ。
家に帰り、なるべく大げさにならないよう妻に伝えた。
「えー……」
それだけ呟いた妻の、なんともやりきれない横顔。
夜、電気を消した布団の中で恐怖が押し寄せてきた。
深夜のラーメン。終わらない残業。
仕事よりラーメンより、もっと大事なものがあるだろうと、
過去の自分の頭を全力でひっぱたいてやりたかった。
退院後、久しぶりに家族四人で街を歩く。
少し歩調を早めると、胸の奥がキュッと痛む。
立ち止まって呼吸を整える私を、
トコトコと先を歩いていた我が子が振り返る。
「パパ、心臓痛いの?」
その無邪気な言葉が胸に突き刺さる。
子供に「病人の影」を背負わせたくない。
ただ同じ速度で、同じ景色を見たいだけだ。
気合や根性では生き残れない。
どうやってこの壊れたエンジンで、あの子たちが大人になるまで走り続けるか。
これは、私が生き延びるための生存戦略であり、
いつか子供たちが大人になったときに見つけるための、
ささやかな航海日誌だ。

