先生のいない世界と、時速5kmの壁
「シンジさんの検査結果なら、もっと早く歩いても大丈夫なはずなんだけどね」
理学療法士の先生は、カルテを見ながら不思議そうにそう言っていた。だけど心臓リハビリ中の僕は、時速5kmの壁をどうしても超えられずにいた。マシンをその速度に設定すると「心臓が痛くなる」。結局、時速4kmに落としてトボトボと歩くのが精一杯だった。
半年間の病院でのリハビリが終わり、先生のサポートはもう無い。これからは、自分だけの力で予後を快活に過ごすための有酸素運動を続けていく必要がある。
僕は近所のジムに入会し、リハビリ時代の倍にあたる「毎日60分の歩行」を自分に課すことにした。
「退屈」という名の、もう一つの敵
意気込んで始めたジム通いだったが、すぐに別の壁にぶち当たった。
走るのなら「自分との戦い」という充実感もあるのかもしれない。しかし、時速4kmでただボーッと歩く60分は、とにかく退屈だった。
マシンの前にある壁を黙々と見つめながら足を動かし続ける。これは運動というよりも、ただの「単純作業」だった。心肺機能的には問題ない、けどしんどい。飽きる。10分経ったかどうかの確認のために時計ばかりを見ていた。これは苦行だ。
この退屈さに耐えかねて、3日で挫折していく人の気持ちが痛いほどよく分かった。
苦行の時間を楽しい時間に

60分黙々と歩くのは飽きてしまう。自分の場合はYoutubeの動画を1.5倍速で見るようにした。
特にお気に入りの動画は「中田敦彦のYouTube大学」。
この人天才だよ。動画内容が充実してるし結構長尺動画あるから、60分歩くのも苦じゃなかった。
このチャンネルがいかに面白いかを説くのは置いといて・・・退屈を克服して歩き続けた結果、僕の身体にも変化が現れた。2週間が経つ頃には恐怖だった時速5kmにスピードを上げても、心臓が悲鳴を上げなくなっていた。
自分の中で、確かな喜びが込み上げた瞬間だったね。ありがとう、あっちゃん。
休職中の贅沢とこれからの課題
心臓が少しずつ、確実に鍛えられている実感が持てた。
ただ、これだけ潤沢に時間を投資できているのは、いま自分が「休職中」だからでもある。この贅沢なリハビリ環境を、職場復帰した後にどうやって維持していくか。それが僕の次の課題。

